2015年頃、マメヒコ定期券というのをやっていました。
「定額お支払いいただくと定期的が発行されて、
マメヒコで自由に飲食できますよ」というもの。
カード型の定期券には有効期限と共に名前を書き込むので、
「名前と顔の一致するお客さん」というのがこの時にぐっと増えました。
ここで「顔見知りのお客さん」がたくさんできたことは、
今のメンバーシップ制に至るキッカケの1つになっていると思います。
さて、その定期券を始めて間もない夏のある日。
18歳の男の子が定期券を買ったのでした。
彼が初めて定期券を持ってマメヒコに来た日、
私はその場に居合わせました。
忘れもしない、最初の注文は
「ハムチーズサンド1皿とベーコンサンド2皿」…!!!!
「あの…食べきれますか?1皿食べ終わって、
お腹の具合みてまだ食べられそうならまたご注文、
というのはいかがですか?」
「あ、食べられるんで大丈夫です、全部持ってきちゃってください」
大量注文してほとんど食べずに残して帰ったらどうしようかなぁ…
と思いましたが、3皿全てペロリと全部食べて、
さらに追加でマメレット、デザート、ドリンク2種類…
全て胃袋に収めて帰っていきました。
1人でこんなにたくさん注文する人は後にも先にも見たことがありません。
ものすごい勢いで食べて飲んで帰っていき、
嵐が去ったかのようで、
その日私は彼のオーダーが書かれた長ーい伝票に
「嵐を呼ぶ少年」と書き込みました。
それから私たちスタッフの中で彼は「嵐くん」
と呼ばれることとなりました。
その日から、来るたびに大量に(1回に10品以上!!)
食べて飲んで帰る嵐くん。
どうにかして取り締まりたい私たちに、
井川さんは、
「そういうやつは心に穴が開いてるから、
それが埋まるまで好きなだけ食べさせてあげな」
というではありませんか。
それにしたって、
私たちにとって定期券はお客さんとのコミュニケーションツールであり、
「なんでも食べていい夢のチケット」ではないんです。
井川さんの指示通り、お節介なマメヒコスタッフが入れ替わり立ち替わり、
ちょこちょこと話しかけて、
日々すこしずつ親しくなっていく作戦を取りました。
そうすると不思議なことに、
嵐くんは大食い少年ではなくなってきました。
聞いてみると、彼は岡山県の高校3年生で受験生。
ちょうど夏休みで、受験に向け、
東京のおじいちゃんの家に滞在しながら、
東京の英語塾に通っていたとのことでした。
ネットでマメヒコ定期券のことを知り、
東京にいる約1ヵ月の間にこの定期券を利用しようと思ったそうなのです。
受験という波に飲まれ、周りの期待を背負い、
慣れない東京の地で朝から晩まで勉強勉強…
キツいことがたくさんあったんだと思います。
ほんとに心に空いた穴を埋めたくて、
マメヒコに来ては食べ続けていたんだと思いました。
ある日、嵐くんは何かに気づき、爆食いをやめました。
そして反省した様子で、お店のお皿洗いを買って出るまでに。
「絶対に東京の大学に受かってマメヒコでバイトします」とまで言って、
岡山に帰っていきました。
結果的には進学先が大阪になり、
マメヒコでのバイトは叶いませんでしたが、
なにか大きな恩を感じているのか、
嵐くんは東京に来たら必ず顔を出してくれます。
そして、ちょうど数日前。
三軒茶屋店に、ずいぶんと大人になった嵐くんが久々に現れたのです。
もう25歳の立派な社会人でした。
公園通り店の閉店を伝えると、
「いやぁ、あんなに食べるなんてひどいっすよね。
赤字は俺のせいです、すみません!」
と若かりし自分のことがとても恥ずかしい様子。
しかし、私達にとっては良い想い出なのです。
出会いも別れも再会もあります。
お店に立っていると、奇跡と呼べることが、たくさんあるのです。
そんなことは映画だけのことで、
ホントの世界にあるなんて知らなかった私。
毎日お店に立ち続けているのは、小さな奇跡がいっぱいあるからです。